フロリゲンの機能を直接制御できる化合物を発見
~花と実りをもたらす新しい分子の開発へ~

2022年11月11日
フロリゲン活性化複合体の形成を阻害する化合物を発見

【本研究のポイント】

  • ・植物の花の発生を誘導する最強の運命決定因子であるフロリゲンの機能を直接制御できる化合物を発見した。
  • ・発見した化合物はフロリゲン活性化複合体注1)の形成を阻害した。
  • ・フロリゲンの機能を人為的に制御する新技術の開発につながる。

【研究概要】

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの辻 寛之 教授らの研究グループは、横浜国立大学の児嶋 長次郎 教授、横浜市立大学の田岡 健一郎 博士、及び神戸大学、大阪大学、京都大学、鹿児島大学、名城大学との共同研究で、植物の花の発生を誘導する最強の運命決定因子であるフロリゲンの機能を直接制御できる化合物を新たに発見しました。
 このことにより、花と実りをもたらす新しい技術の開発への応用が期待されます。
 本研究成果は、2022年10月26日付イギリスの科学雑誌「The Plant Journal」に掲載されました

【研究背景と内容】

 フロリゲンは、植物の花の発生を誘導する最強の運命決定因子です(図1)。フロリゲンの正体は FT/Hd3aと呼ばれる球状タンパク質です。フロリゲンが適切に機能することで、花と実りがもたらされ、人類の食と生存が支えられます。またフロリゲンは、花芽分化だけでなく、ジャガイモの塊茎形成など、農業生産上重要な発生過程を制御しています。このため、フロリゲンの理解と制御は、農学の重要な研究テーマの一つに位置づけられています。
 フロリゲンの機能を制御する方法として、これまでは、交配による品種改良や電照などの大規模な環境制御が行われてきました。これらの技術は、実施するのに比較的長い時間を必要としていたり、大規模な施設が必要であったりという課題がありました。もし、低分子化合物の投与によってフロリゲンの機能を直接制御できれば、簡便な新技術として活用が期待されます。しかしこれまでに、フロリゲンの機能を化合物で制御する技術は存在しませんでした。
 本研究では、フロリゲンの機能を制御する化合物を発見することに成功しました。このために、私たちはフロリゲンの機能を担うタンパク質複合体・フロリゲン活性化複合体の構造に注目しました(図2)。フロリゲン活性化複合体を標的とするハイスループットスクリーニング実験系、複合体の細胞内再構築実験系などの独自の技術を開発し、フロリゲン活性化複合体の形成を直接阻害する化合物を発見することができました(図3)。得られた化合物によって、ウキクサの花成を阻害することに成功しました(図4)。またフロリゲンは、イネの枝数を増やしたり、ジャガイモの塊茎形成も誘導したりする機能を持っていますが、これら機能も阻害することに成功しました。これらの結果から、私たちは世界ではじめて、フロリゲン活性化複合体の形成を直接阻害する、機能的な化合物を発見したと結論づけました。本研究で発見した化合物をもとに、改良を行うことで、より効果的な化合物の開発につながると期待できます。

図1. フロリゲン
図1. フロリゲン

図2. フロリゲン活性化複合体
図2. フロリゲン活性化複合体

図3. フロリゲンの機能を制御する化合物のスクリーニング
図3. フロリゲンの機能を制御する化合物のスクリーニング

図4. 化合物S4によるウキクサの花芽分化の阻害
図4. 化合物S4によるウキクサの花芽分化の阻害

【成果の意義】

 本研究で発見した化合物は、フロリゲン活性化複合体の形成を直接的に阻害するので、標的がはっきりと分かった上で、使用可能な化合物による、植物成長調節技術を提供することに繋がります。
 花卉類などで、花の発生がはじまるタイミングを調節することにより、周年供給を可能にする新しい技術への応用が期待されます。また有用育種母本間で花の発生がはじまるタイミングを調節することにより、品種育成の可能性を拡大することに繋がります。

【用語説明】

  1. 注1)フロリゲン活性化複合体:
     フロリゲンの活性本体となる転写複合体。フロリゲンFTタンパク質、フロリゲン受容体14-3-3タンパク質、転写因子FDの3種類のタンパク質によって構成され、核内で花の発生を誘導する遺伝子の発現を活性化する。

【論文情報】

掲載誌:The Plant Journal
論文タイトル:Multifunctional chemical inhibitors of the florigen activation complex discovered by structure-based high-throughput screening
著者: Ken-ichiro Taoka*, Ikumi Kawahara, Shoko Shinya, Ken-ichi Harada, Eiki Yamashita, Zenpei Shimatani, Kyoko Furuita, Tomoaki Muranaka, Tokitaka Oyama , Rie Terada, Atsushi Nakagawa, Toshimichi Fujiwara, Hiroyuki Tsuji*, and Chojiro Kojima* (* Corresponding authors) 下線は本学教員
DOI:doi.org/10.1111/tpj.16008
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/tpj.16008