接木の接着力を定量する手法の開発
~セルラーゼの添加によってタバコの接木は促進される~

2020年12月11日

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの 川勝 弥一 研究員と野田口 理孝 准教授の研究グループは、接木の接着力を簡易に定量する手法を開発しました。植物の接木は古くから行われてきた農業技術であり、果物や野菜の栽培に広く利用されています。私たちの研究グループでは、本年2020年8月にScience誌に接木の接着の鍵となるβ-1,4-グルカナーゼ(セルラーゼ)注1)が細胞の外に分泌されて植物で機能することを示しました。今回、このセルラーゼを外的投与することでも接木を促進させる効果があることを示すことができ、科学的研究成果を農業へ技術利用する道筋が示されました。
本研究では、接木を簡易に解析するため、タバコ植物を用いたin vitro graftingシステム注2)を開発しました。培地上で接木を成立させたタバコの茎に対して、フォースゲージ注3)を用いた引っ張り試験を行うことで、接木の接着力を定量することに成功しました。この方法を用いて、接木を促進する植物ホルモンであるオーキシンを添加した培地上でin vitro graftingを行うと、接着力が増加しました。また、タバコの接木に重要な役割を果たすセルラーゼを添加した培地でも、接着力が増加することがわかりました。さらに、オーキシンとセルラーゼを同時に添加することで、接着力が相乗的に増加することも示されました。このことから、タバコの接木はセルラーゼを外的に投与することで促進されることが示されました。
この研究成果は、2020年12月11日付で科学雑誌「Plant Biotechnology」にオンライン掲載されました。

【ポイント】

  • ・スループット性の高い接木手法が開発された。
  • ・接木の接着力を定量化することに成功した。
  • ・接木部位へのセルラーゼの外的投与による接着促進が認められた。

【研究背景と内容】

 接木を簡易に解析する方法にin vitro grafting (IVG)システムがあります。しかし、この手法はスループットが低く、接木の成立を定量的に評価する方法がないという課題がありました。そこで本研究では、タバコ属植物を対象に、接木を短時間に多数実施することのできるIVG法を開発しました。タバコの茎を1.5 mm幅に切ったものを二つ合わせて、4つの突起がある穴の空いたシリコン製シート(IVGシート)にはめ込んで培養することで、省スペースでかつハイスループットに接木を行うことが可能になりました(図1)。
接木の成立を定量的に評価するために、フォースゲージを用いました。この装置を用いて接木した茎を一定速度で引っ張って破壊試験注4)を行うことで、接木が外れる際に生じる力を測定しました(図2)。
本手法を用いて、接木を促進することが知られる植物ホルモンのオーキシンを試験すると、その促進効果を有意に検出することができました(図2)。また、私たちの最近の研究より、接木部位の組織接着にセルラーゼが関わっていることが推察されていたため、セルラーゼの外的投与についても試験した結果、オーキシンと同様に顕著な促進効果が検出されました(図2)。このことから、セルラーゼは外的に投与することでも接木を促進させる効果があることを示されました。最後にオーキシンとセルラーゼを同時に添加した場合について調べたところ、単独で投与した場合よりも高い接着力が得られることが示されました(図2)。

図1 開発したIVGシートおよびタバコのIVGの様子

図2 IVG茎の接着力の測定および接着力の比較

【成果の意義】

 本研究で開発したIVGシステムにより、均一性の高い接木部位を簡便に用意することが可能となり、さらに接木の成立程度を接着力を指標として定量的に評価することが可能になりました。本システムは、遺伝的系統を用いた遺伝子の解析、接木の際の環境条件の検証、化学的処理の効果の試験などに適することが可能です。加えて、接木の接着にはセルラーゼが寄与するという私たちの発見を元に、セルラーゼを外的に添加することによって接木の接着力が増すことが示されたことで、学術的成果を実際の農業へ応用できる可能性が示されました。

【用語説明】

  1. (注1)セルラーゼ:植物細胞などの細胞壁を分解する酵素。
  2. (注2)in vitro grafting (IVG):試験管内などの無菌条件で接木を行う手法。
  3. (注3)フォースゲージ:接触の際に発生する力を測定する装置。
  4. (注4)破壊試験:破断や亀裂の発生などを観察、計測し、その材料の強度や性質を検査する試験。

【論文情報】

雑誌名:PLANT BIOTECHNOLOGY
論文タイトル:An in vitro grafting method to quantify mechanical forces of adhering tissues
(接木における組織の機械的な接着力を定量化するインビトロ接木法の開発)
著者:Yaichi Kawakatsu, Yu Sawai, Ken-ichi Kurotani, Katsuhiro Shiratake, Michitaka Notaguchi*
*Corresponding author
DOI:10.5511/plantbiotechnology.20.0925a

【著者所属】

名古屋大学生物機能開発利用研究センター 川勝 弥一、澤井 優、黒谷 賢一、野田口 理孝
名古屋大学大学院生命農学研究科 白武 勝裕

【研究費】

  1. ・科学研究費助成事業(18KT0040, 18H03950, 19H05361)
  2. ・公益財団法人キヤノン財団(R17-0070)
  3. ・農研機構生研支援センター(28001A, 28001AB)