ソルガム子実が甘くなる原因遺伝子とメカニズムを解明
~「甘くはなるがシワにはならない」対立遺伝子も同定し、育種利用に活路~

2023年2月15日

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの橋本舜平博士(日本学術振興会 特別研究員PD)、佐塚隆志教授らの研究グループは、子実型ソルガム(世界第5位の穀物)においてその食味に重要である、胚乳内ショ糖の蓄積レベルを制御する責任遺伝子を同定し、そのメカニズムを明らかにしました。また、この成果を社会で役立てるため、その弱い対立遺伝子も同定しました。本成果は2023年2月13日、国際誌『Frontiers in Plant Science』に掲載されました。本研究はJST・未来社会創造事業(JPMJMI17EG)、NEDOムーンショット事業(JPNP18016)、JSPS科研費21J13351及びJP22K14868の支援を受けて行われました。

【ポイント】

  • ● ソルガムの胚乳が甘くなる系統(胚乳高糖性系統)は50年以上前に報告があったが、これまで詳細な研究はされておらず、また、子実がシワになるため育種利用もされてこなかった。
  • ● 分子遺伝学的手法により、胚乳高糖性系統 “SUGARY FETERITA” の責任遺伝子が同定され、それはデンプン脱分岐酵素ISA1をコードしており、その遺伝子はスイートコーンの責任と考えられている3つの遺伝子の一つのオルソログであった。
  • ● 育種を通した社会への活用を目指し、「甘くはなるがシワにはならない」対立遺伝子も同定した。

【研究背景と内容】

 スイートコーンは胚乳が甘くなる変異を育種に応用した成功例であり、結果、米国国内だけでも23万haの栽培面積、出荷額14億ドルの農業が行われています。一方、子実型ソルガム (Sorghum bicolor (L.) Moench) はコムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギに次ぐ世界第5位の主要穀物ですが、ソルガムにおいても胚乳が甘くなる系統は半世紀以上も前に報告がありました。スイートコーンの前例を考えれば、この胚乳高糖性の育種活用は重要と考えられますが、責任遺伝子の同定やメカニズムの解明などの研究はこれまで行われておらず、また、種子にシワを生じる強い表現型は、子実収量の減少やカビの発生などを引き起こすため、育種利用もされてきませんでした。
 そこで本研究では、胚乳高糖性のソルガム変異系統 “SUGARY FETERITA” を供試した研究を進めました。その結果、責任遺伝子がデンプン枝切り酵素ISA1(Isoamylase 1)をコードするSbSu(スイートコーンにおける3つの原因遺伝子の一つ、su1のソルガムオルソログ遺伝子)が原因遺伝子であることを突き止めました。
 さらに、この遺伝子の育種利用や社会への活用を目指し、「甘くはなるがシワにはならない」弱い対立遺伝子も同定し、その利活用に道を開きました。本研究成果の成果は、ソルガム子実の食味改良に向けた新しい育種の基盤となると考えられます。

【論文情報】

掲載誌:Frontiers in Plant Science
論文タイトル:An analysis of sugary endosperm in sorghum: Characterization of mutant phenotypes depending on alleles of the corresponding starch debranching enzyme
著者:Shumpei Hashimoto, Satoshi Okada, Satoko Araki-Nakamura, Kozue Ohmae-Shinohara,
 Kotaro Miura, Hideo Kawaguchi, Chiaki Ogino, Shigemitsu Kasuga, Takashi Sazuka* (* Corresponding author)
DOI: doi.org/10.3389/fpls.2023.1114935
URL: https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2023.1114935/full