ソルガムF1品種「天高」のバイオマス雑種強勢に必要十分な5重要遺伝子が明らかに

2021年3月17日

 植物バイオマスは低炭素社会構築に重要であり、雑種強勢注1)はバイオマスを増大させる鍵となる現象です。東海国立大学機構名古屋大学生命農学研究科の大学院生、橋本舜平、和氣達朗、及び生物機能開発利用研究センターの佐塚隆志教授らの研究グループは、高バイオマス作物ソルガムの雑種強勢に必要な5つの遺伝子を明らかにし、さらにそれらが雑種強勢に十分であることも実験証明しました。本研究成果は、2021年2月25日、国際誌『Scientific Reports』にオンライン掲載されました注2)。本研究はJST・未来社会創造事業、理研-名古屋大学科学技術ハブ、及び国立研究開発法人新エネルギー・ 産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて行われたものです。

【ポイント】

  • ・これまで遺伝学の謎の一つであった雑種強勢について、「優性モデル」で説明される事例を実験証明した。
  • ・この雑種強勢の原理を応用し、F1の高バイオマスを純系で再現するという画期的な育種法が開発された。
  • ・低炭素社会構築に向けて、バイオマス作物の育種デザインが可能になった。

【研究背景と内容】

 現代の農業では、その多収性から、雑種強勢の旺盛なF1注3)品種が多く栽培されています。雑種強勢は古典的に3つの仮説(優性モデル、超優性モデル、エピスタシスモデル)が提唱されていましたが、これまでこれらのモデルが遺伝子レベルで実験証明されたことはありませんでした。
 この研究では、典型的なバイオマス雑種強勢を示す高バイオマス作物ソルガムに注目し、その中でも特に強い雑種強勢を示すF1品種「天高」注4)(両親系統の草丈が1.2 m 程度に対して、天高は4 m以上)をこのモデルと位置づけ、この後代集団を供試することで量的遺伝子座(QTL)解析を行いました。その結果、5つの重要遺伝子座が検出されました。そのうちの一つDw7aは未知遺伝子であったためクローニングを進め、MYB型転写因子をコードし、草丈を制御する遺伝子であることも明らかにしました。この結果、天高の雑種強勢に「必要な」5遺伝子がすべて明らかとなりました。さらに、この5遺伝子を純系に集積した結果、天高の約83%以上をカバーしたことから、5遺伝子がこの雑種強勢にほぼ「必要十分」であることも明らかとなりました。以上の結果から、長年、遺伝学の謎の一つであった雑種強勢が、遺伝子レベルで解明されるという画期的な成果が得られました。また、雑種強勢がこれまで提唱されていた仮説の一つ「優性モデル」で説明され、純系でも再現できることが証明されたことから、F1の純系化法という新しい育種法が提案されました。
 これらの成果は、遺伝学の謎を解明しただけでなく、地球規模課題である低炭素社会の構築に向けて、作物バイオマスの育種デザインが可能になったいう点でも革新的成果です。

【用語説明】

  1. 注1)ある特定の組合せの両親を交雑した際に、雑種一代 (F1) が両親よりも優れた形質を示す現象。
  2. 注2)https://www.nature.com/articles/s41598-021-84020-3
  3. 注3)2つの純系を交配して作出された雑種の一代目。
  4. 注4)https://www.nature.com/articles/s41598-021-84020-3/figures/1 図1a参照。