寄生植物が宿主植物に寄生する時に働く遺伝子を発見
〜植物の接木成立と共通するメカニズム〜

2020年7月30日

 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの黒谷 賢一特任講師と野田口 理孝准教授らの研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センターの若竹 崇雅研究員(研究当時)と白須 賢副センター長らの研究グループと共同で、寄生植物が宿主 植物に寄生する時に必要とされる遺伝子を同定しました。
 寄生植物は比較的広範囲の植物を宿主植物として、根や茎に寄生し、高い繁殖性を示すことから、世界中で農作物への被害が問題となっています。
 これまでに研究グループは通常不可能であると考えられていた異なる科同士の接木(異科接木)がタバコ属植物では可能であることを示し、接木の成立に関わる遺伝子を同定しました。今回、モデル寄生植物であるコシオガマが、タバコ属植物と同様に、異科接木が可能であることを発見しました。コシオガマの寄生時と接木時の転写産物を比較したところ、タバコ属植物を異科接木した時に発現が上昇し、接木の接合面で細胞壁の再構築に関わっていると考えられるβ-1,4-グルカナーゼが、共通して発現上昇していることを見出しました。また、このβ-1,4-グルカナーゼの発現は寄生植物の進化の系譜に沿って、寄生性獲得と同調していることを示しました。さらに、コシオガマでβ-1,4-グルカナーゼの発現を一時的に低下させると、寄生成立を抑制することを明らかにしました。今後、β-1,4-グルカナーゼの活性を人為的に阻害することで、寄生植物の作物への寄生を抑制し、農業被害を軽減することが可能になると考えています。
 この研究成果は、2020年7月30日付英国科学雑誌 Communications Biology電子版に掲載されました。

【ポイント】

  • □ タバコ属植物で可能である遠縁の植物との接木が寄生植物でも可能であることを発見
  • □ 寄生時と接木時に発現が上昇する遺伝子を同定
  • □ タバコ属植物の接木時に機能する細胞外に分泌されるβ-1,4-グルカナーゼが寄生時にも発現している
  • □ β-1,4-グルカナーゼの発現を抑制すると寄生が成立しなくなる

【研究背景と内容】

 寄生植物は他の植物から水分や養分を吸収する能力を進化させてきた植物種です。被子植物の中でOrobanchaceae科は最も多数の寄生植物を含んでいますが、ストライガやフェリパンキ、オロバンキといった世界中で甚大な農業被害をもたらしている寄生植物がこれに含まれています。これらの寄生植物は宿主植物との間にハウストリウムという特殊な寄生器官を形成し、水分や養分を吸収するための物理的な接続を行います。宿主植物からのシグナル物質を感受すると、寄生植物は根の表皮細胞からハウストリウムを分化させ、宿主の細胞壁を再構成させて密着し、通道組織を接続させます。今回、これらの細胞の接着の様子が、植物の人為的な接木、特に遠縁な植物同士の接木(異科接木) の実施時の接木接続面で起こる現象に近似していることに着目し、モデル寄生植物であるコシオガマの異科接木を実施したところ、多数の植物種との間で接木が成立することが明らかになりました(図1)。

図1 コシオガマの寄生 (左)と接木 (右)
Pj : コシオガマ、At : シロイヌナズナ 拡大部分で寄生している。矢尻は接木部

このことから、寄生植物の寄生という現象と、人為的に接木を実施した際の傷の癒合という現象に、共通のメカニズムが存在することが予想されたため、コシオガマをシロイヌナズナに寄生させたときと両者を接木により接合したときの遺伝子発現を経時的、網羅的に解析し、2つの現象で共通するパターンで発現が変動する遺伝子を同定しました(図2)。細胞分裂関連など、多数の遺伝子が同定されましたが、異科接木が成立する、ベンサミアナタバコとシロイヌナズナの接木実施時に発現が上昇する遺伝子群との比較解析をさらに実施したところ、ベンサミアナで以前に発見、同定していたβ-1,4-グルカナーゼがコシオガマの寄生時、接木時にも共通して発現上昇していることを発見しました。

図2 寄生時と接木時の遺伝子発現パターンの解析
(a)寄生時のハウストリウムと遺伝子発現のクラスタリング解析。(b)接木時の接木接続面のクラスタリング解析。それぞれの現象の発生する時期を対応させて相似な発現パターンを示す遺伝子を同定した。

一方、Orobanchaceae科に属する植物で、寄生性を示さないリンデンベルジアは異科接木を成立させることができませんでした。β-1,4-グルカナーゼの発現上昇のパターンについて、コシオガマとリンデンベルジアの接木時、およびコシオガマとストライガの寄生時でそれぞれ比較した結果、寄生性とβ-1,4-グルカナーゼの発現上昇に相関があることを見出しました(図3)。

図3 寄生植物の進化寄生性の獲得と寄生時及び接木時のβ-1,4-グルカナーゼ遺伝子の発現パターンには相関がある。

さらに、コシオガマのβ-1,4-グルカナーゼを一時的に発現抑制させ、宿主と接触させたところ、ハウストリウムの形成誘導は起こったものの、組織の癒合、および通道組織の結合は形成されず、寄生が成立しないことを示しました(図4)。

図4 通道組織の結合野生型(上)で形成されている通道組織(XB)が当該遺伝子の一時的抑制を行うと形成されない(下)。

これらのことから、寄生植物は植物の本来持つ傷ついた組織癒合のための機構の一部を発展させ、宿主の組織の再構成を行うことで、寄生能力を獲得してきたことが示唆されました。

【成果の意義】

 寄生植物は多くの農作物に寄生し、その収量を著しく低下させるため、世界中でその対応に苦慮しています。今回、寄生という生命現象と、人為的な接木、及びその本来の生理的な意義である傷の修復という現象が、共通するメカニズムに依存していることを初めて明らかにしました。この発見により、寄生植物の作物植物への寄生を抑制する技術開発が進展することで、安定した農作物の収穫が得られることが期待され、今後予測される食糧難の回避の一助となることを期待します。

【論文情報】

雑誌名:Communications Biology
論文タイトル:Host-parasite tissue adhesion by a secreted type of β-1,4- glucanase in the parasitic plant Phtheirospermum japonicum
(β-1,4-グルカナーゼによる寄生植物コシオガマと宿主植物の細胞間癒合)
著者名:Ken-ichi Kurotani, Takanori Wakatake, Yasunori Ichihashi, Koji Okayasu, Yu Sawai, Satoshi Ogawa, Songkui Cui, Takamasa Suzuki, Ken Shirasu, Michitaka Notaguchi
(黒谷 賢一、若竹 崇雅、市橋 泰範、岡安 浩二、澤井 優、小川 哲史、Songkui Cui、鈴木 孝征、白須 賢、野田口 理孝)
DOI:10.1038/s42003-020-01143-5

【研究費】

・科学技術振興機構(15657559, 15665754)
・科学研究費助成事業(18KT0040, 18H03950, 19H05361, 15H05959, 17H06172)
・公益財団法人キヤノン財団(R17-0070)