植物科学研究に用いるための接木チップの開発

2020年05月27日

名古屋大学生物機能開発利用研究センター 野田口理孝 准教授らの共同研究グループは、これまで熟練した技術が必要であったモデル植物シロイヌナズナの極めて小さな芽生えの接木(マイクログラフティング)を誰でも簡単に行なうことのできる「接木チップ」を開発しました。本成果により、植物の長距離シグナル伝達に関する研究がますます発展することが期待されます。また応用展開として、名古屋大学発ベンチャー グランドグリーン株式会社では、トマト栽培に使用される接木苗の生産を効率化する「接木カセット」が開発され、農業分野での活用も期待されます。
この研究成果は、2020年4月13日付の英国科学雑誌「The Plant Journal」オンライン版に掲載されました。

研究内容

植物は、様々な環境への応答を全身的なシグナル伝達によって調節していることが近年の植物科学の研究で明らかとなっています。それらの研究に有効な研究手法が、シロイヌナズナのマイクログラフティング法でした。しかし、種子から発芽して数日後の若い芽生え(茎の太さは、0.2~0.3 mm)を用いた接木で、技術的には大変に困難でした。今回、研究グループは、電子回路を作る際に使う微細加工技術MEMS注1を接木に応用し、オンチップで植物を保持して接木することのできる接木保持具となる接木チップを開発しました。開発した接木チップは、可変性のPDMS樹脂注2で成形されており、植物の成長に合わせて変形するため個体ごとのばらつきを吸収し、画一的に芽生えを扱うことができます。このチップ上で、種子の発芽から、植物の成長、接木までの一連のプロセスを完了することができます。ユニットごとに、種子を蒔くための種子ポケットと、その上部に茎が伸長するマイクロ通路と、種子ポケットの下部には根が伸長するための領域を持ち、4つのユニットが並んだものが接木チップとなります(図1)。
 既に国内外の他の研究グループとの間では本技術を活用した共同研究が進められており、植物科学分野で新たな研究成果が生まれることが期待されます。

図1 接木チップ
図1 接木チップ

用語説明

注1)MEMS技術
icro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)は、基板上に様々な機能を集積化する微細加工技術の総称です。
注2)PDMS樹脂
poly(dimethylsiloxane)(ポリジメチルポリシロキサン)樹脂は、シリコン樹脂の一種であり、生体適合性が高くマイクロメータースケールの微小な形状に入り込むことが可能であるため、MEMS技術において多用されます。

掲載雑誌

The Plant Journal, first published April 13, 2020

論文名

Micrografting device for testing systemic signaling in Arabidopsis

著者

Hiroki Tsutsui, Naoki Yanagisawa, Yaichi Kawakatsu, Shuka Ikematsu, Yu Sawai, Ryo Tabata, Hideyuki Arata, Tetsuya Higashiyama, and Michitaka Notaguchi
https://doi.org/10.1111/tpj.14768