ジベレリン信号伝達を抑制するSPINDLY (OsSPY)は、イネの「草型」決定に最も貢献する因子である

2019年10月08日

名古屋大学生物機能開発利用研究センター 松岡信 教授らの共同研究グループは、統計学におけるデータ解析手法である主成分分析と、遺伝学的手法であるGWASを組み合わせた解析により、イネの草型決定に最も貢献する因子を明らかにしました。本研究によって提案された新しい解析手法により、複数の形質によって決まる植物の複雑な形質においても遺伝子単離が可能であることが示されました。
この研究成果は、2019年9月30日付の米国科学雑誌「PNAS」オンライン版に掲載されました。

研究内容

イネの「草型(Plant architecture)」は、複数の個別形質の総体によって決められる複雑形質であり、イネ収量の多寡を決める重要な因子です。本研究では、イネ「草型」の構成因子として、稈長・個体当たり分蘖数・穂構造・到穂日数等を設定し、これらについて主成分分析(注1)を行うことで、「草型」を少数の合成された新たな変数(主成分)として捉え直しました。その結果、第1主成分がイネ収量に最も大きな貢献をする一方、第2主成分は到穂日数や分蘖数に関連することが明らかとなりました。次にこの主成分スコアを用いてゲノムワイド関連解析(GWAS)(注2)を行った結果、8番染色体上にあるSPINDLY(OsSPY)がイネの「草型」決定に最大の貢献をしていることが明らかになりました。OsSPYは植物生長ホルモンであるジベレリン(GA)(注3)信号伝達の抑制因子として報告されていますが、実際、GA信号伝達量だけを変化させた9種類の同質置換系統を用いて主成分分析を行った結果、GWASパネルの結果と到穂日数を除きほぼ同一の結果が得られました。この結果は、確かにGA信号多寡がイネの「草型」決定の最大要因であることを示しています。さらに、最近公開された多数の栽培イネや野生イネのゲノム情報を用いて、日本の栽培イネの大勢を占めている「短稈・少穂・多分蘖」の草型をもたらすOsSPYアリルの起源と伝搬を調べたところ、このアリルは近代育種の過程で育種家によって選抜された新しい型であることが確認されました。
今回の研究は、複数の個別形質により決定される複雑形質でも、主成分分析により得られた主成分スコアを用いたGWAS解析によりその制御に関わる主導遺伝子が単離可能であり、逆に単離された遺伝子機能を調べることで、その主成分の中身がより詳細に解明できるという新しい解析手法を提案します。

用語説明

注1 主成分分析
統計学における解析手法のひとつ。たくさんの量的な説明変数(計測値など)を、より少ない指標に要約する手法です。主成分分析によって要約された新たな変数(合成変数)のことを「主成分」と呼びます。多数のデータになると全体の特徴を捉えることが困難になりますが、主成分分析を行うことにより主成分を得ることで、データの持つ情報をできる限り損なわず、かつデータ全体の雰囲気を可視化することができるので、データ全体が示す特徴を読み取ることが容易になります。
注2 ゲノムワイド関連解析(Genome-Wide Association Study)
生物は個体や系統などにより、大きさや病気に対する抵抗性などの様々な性質(形質)を持っている。多数の系統のDNA配列データと形質データを統計解析し、それぞれの形質に関連する遺伝子について染色体上の位置を検出する遺伝学的手法。英語名の頭文字からGWASとも呼ばれる。
注3 ジベレリン
植物ホルモンの一種。植物において細胞の伸長促進や、種子の発芽促進などの機能を持つ。

掲載雑誌

PNAS first published September 30, 2019

論文名

GWAS with principal component analysis identifies a gene comprehensively controlling rice architecture

著者

Kenji Yano, Yoichi Morinaka, Fanmiao Wang, Peng Huang, Sayaka Takehara, Takaaki Hirai, Aya Ito, Eriko Koketsu, Mayuko Kawamura, Kunihiko Kotake, Shinya Yoshida, Masaki Endo, Gen Tamiya, Hidemi Kitano, Miyako Ueguchi-Tanaka, Ko Hirano, and Makoto Matsuoka
https://doi.org/10.1073/pnas.1904964116