T研究内容
私たちの研究室では、世界の三大穀物の一つであるであるイネを対象に研究に役立つリソースの
開発、収集、保存を行うとともに、リソースの遺伝変異を利用して形質が現れる生物学的仕組みを
分子レベルで解明し、生産現場への応用を目指した研究を展開しています。また、最近では学内外
の関連する研究分野や研究機関と共同研究を進め、世界の食料増産と安定的供給につながる多収
イネの開発に関わる研究に着手し始めています。
(1) 研究を支えるバイオリソースの開発、収集と保存
    
植物の遺伝学や生物学の研究を効率的に進めるためには突然変異体が役に立ちます。
    私たちの研究室では、これまでにイネの形態に関連する変異体を中心に数千系統の変異体を作出・
    収集・保存することで将来の研究に備えてきました。尚、これらの変異体のストックの一部は、
    文部科学省のナショナルバイオリソースプロジェクト(平成14-18年度)に参加する中で順次公開
    されてきました。また、平成19年度からは第2期のプロジェクトに参加し、野生のイネの形質評価
    を中心とした研究にも携わっています。
(2) GAシグナルを標的とした分子農学の展開
    植物ホルモンであるジベレリン(GA)は、植物の草丈、開花促進、葯の形態形成など多くの生理
    作用が知られています。GAを植物がどのように認識し、これらの生理作用を引き起こすのかを
    理解することは、大変興味深いと同時に応用的にも重要です。私たちは、植物分子育種や高次生体
    機能分野と共同でイネ突然変異体を用いてこれらGAに関する生合成や信号伝達経路の研究を行って
    きました。その中で、私たちは世界に先駆けてGA受容体遺伝子を単離し、受容体タンパク質に対す
    るX線結晶構造解析を行うことにより、GA受容体の詳細な構造を明らかにすることが出来ました。
    不思議なことに、GA受容体は脂肪を加水分解するリパーゼ酵素と大変よく似た構造をしていました。
    そして、酵素の基質結合部位に相当するところ(結合ポケット)でGAと結合することがわかりました。
    また、結合ポケットを形成するそれぞれのアミノ酸が、GAの構造のどこと相互作用するのかも分かり
    ました。このことは、GA受容体の結合ポケットにGAと競合して結合するアンタゴニスト化合物や、
    構造は違うけれどもGAと同じような働きをするアゴニスト化合物を予測できるようになったことを意
    味します。今後はこのような知見に基づいて、GA受容体を標的とした分子農学の展開を目指した研究
    も進めていく予定です。

 図1 リボンモデルで示したGA4を結合したGID1受容体の構造


       図2 画像解析手法を用いた穂型解析例


(3)穂型制御に関わる遺伝子の探索と利用
   稲の穂は多数の分枝から構成される複雑な構造をしており、イネの収量構成要素の一つである着粒数は
   穂の分枝パターンの制御によってもたらされると考えられます。私たちは、多収イネ品種に見られる穂の
   分枝構造に着目し穂型の大きく異なる品種間の交雑後代を用いてQTL解析により分枝パターンを制御して
   いる有用遺伝子の探索を進めています。

    野生イネ系統の示す多様な草型