研究テーマ(ソルガム)
・スイートソルガムはなぜ甘いのか?
ソルガムには、搾汁液が甘い品種(スイートソルガムや高糖性ソルガムと呼ばれる)
と甘くない品種があります。その違いは一体何でしょうか。この問いに対する答えは、
どの遺伝子の支配を受けていて、どのようなメカニズムで糖が蓄積するのか、というこ
とになりますが、これらについては現在のところほとんど知見がありませんでした。糖
はバイオエタノール(BE)生産やバイオリファイナリー(BR)利用において極めて重要な鍵
物質です。糖はセルロースを糖化して利用することもできますが、エネルギー収支や生産
コストを考えれば、植物体で糖を生産した方がはるかに有利です(右図)。そこで私達は
この高糖性についてQTL(量的遺伝子座)解析を行い、原因遺伝子座を同定しました。現
在、原因遺伝子についてもポジショナルクローニングを進めることで、ゲノム育種による
新しい品種作りを目指しています。
 
 
・ソルガムF1(雑種一代)品種はなぜ大きいのか? ―鳶が鷹を生む仕組み―
我々が興味を持っていることのもう一つは、ソルガムの巨大なバイオマスです。単位面積
当たりの糖収量を考えた場合、搾汁液が同じ糖濃度であれば、大きな植物の方が糖収量に
勝ります。私達は、この中で最も大きなソルガム品種の一つ「天高」に注目しました。
(上右図)。雑種の一代目である天高には両親がいます(上右図の左右)。両親は1m程の
品種ですが、不思議なことに、その子である天高は4mを優に超える草丈になる巨大な品種
です。このような現象は雑種強勢と呼ばれ、ソルガムは典型的な雑種強勢を示す作物として
知られています。私達はこの雑種強勢の遺伝の仕組み、つまり「天高はなぜ大きいのか?」
を研究しています。最近の成果はこちらを御覧ください。
●日本育種学会秋季大会(126回)記者会見発表→こちら
●名古屋大学HP研究教育成果情報→こちら
これらの研究の成果として、天高が大きくなるためには、少なくとも6つの遺伝子がその鍵
となり、その絶妙な組合せが重要であることが明らかとなりました。
 
・ソルガムの節間伸長性に関わる遺伝子とは?
左の写真を見て下さい。左と右の品種では節間の伸び方が違います。
左の品種は節間があまり伸びない「節づまり」見えますが、右の品種
はまるで竹のようによく伸びています。この性質を節間伸長性と呼び、
節間伸長性は品種によって異なります。天高に代表されるソルガムの高
バイオマス品種はなぜ大きいか、という理由の一つに、優れた節間伸長
性が挙げられます。これは農業上重要であるだけでなく、どのようにし
て伸びることができるのか(例えば細胞の分裂活性が違うのか、細胞の
伸長性が違うのか)、というメカニズムにも興味深いものがあります。
高バイオマス品種の節間伸長性は、ソルガム育種の歴史の中で利用され
てきた矮性遺伝子と深い関わりがあることが、最近の私達の研究で明ら
 かにとなってきました。最近、私達はこの矮性遺伝子の同定し、その
   
節間伸長のメカニズムも明らかになりつつあります。そこでは、ある植物ホルモンとの関連が
明らかとなってきています。さらに、前述の天高の節間伸長性では、これまで研究報告のない
新規遺伝子も関わっていることもわかってきました。このように新しい遺伝子を同定し、その
新しいメカニズムを明らかにすることは、ソルガムだけでなく他のイネ科作物(例えばイネ)
への応用も含め、育種上、重要な研究と位置付けられています。
 
・甘くて大きいソルガム品種を作る  ―サトウキビを超える作物への挑戦―
 私達は、甘くて大きいソルガムの育種、つまり前述の大きな品種「天高」の搾汁液を甘くす
る改良を進めています。それには上述の研究、つまり(1)なぜ甘いのか、(2)なぜ大きい
のか、という研究成果が基盤になっているわけです。
この新品種の完成は目前まで来ています。この育種目標の延長上には、サトウキビを超える作
物の育種が考えられ、それはきっとBE生産やBR生産を加速化するに違いありません。私達は
このように、現実社会へ実装可能な育種研究を目標とし、日々研究を進めています。