植物分子育種分野 名古屋大学生物機能開発利用研究センター

イネ科エネルギー作物への新たな試み ソルガムの研究

図1 研究圃場でのソルガム栽培
   (名古屋大学東郷フィールド) 

ソルガム(Sorghum bicolor(L.) Moench)は、アフリカ北東部が原産の大型イネ科C4作物であり、日本を含む世界各地で栽培されています(図1, 2)。ソルガムは、種子(粉にして食用にします)、搾汁液(サトウキビのように茎に甘い糖液を蓄積します)、茎葉(家畜飼料として利用します)と、さまざまな部分が無駄なく利用可能で、またそれぞれの目的に特化した品種が育成されてきました。ソルガムは食用としての種子利用において、コムギ、イネ、トウモロコシ、オオムギに次ぐ生産高世界第5位の穀物です。日本では室町時代以来、種子を食用とするタカキビ、コウリャンなどが栽培され、また、糖汁採取のためサトウモロコシ、トウキビ、ロゾクなどの品種が栽培されてきた歴史があり、農家の方々にもなじみのある作物です。大規模栽培における栽培体系と機械化収穫も確立しており、現在では、茎葉部分を家畜飼料とする営利栽培が行われています。

私たちは、このソルガムという作物が、現代社会が抱える問題点(例えば、エネルギー問題、新規産業の創出、環境問題など)を解決する切り札の作物になるのではないか、と考えて研究を進めています。

我々がソルガムに注目している点は二つあります。第一は、ソルガムの一部の品種(「スイートソルガム」や「高糖性ソルガム」と呼ばれています)が持つとても甘い搾汁液です。この甘さのもとである糖こそが、問題解決の切り札となる鍵分子だと考えています。糖はバイオエタノール(BE)生産(お酒作りと原理は同じ)の原料として重要なだけでなく、近年ではバイオプラスチック、高機能繊維、バイオ医薬品の原料としても注目されています。このような石油化学に変わる再生可能資源である糖やバイオマスを原料とした製造技術は、バイオリファイナリー(BR)と呼ばれています。世界各国では再生可能エネルギーへの転換を目指し、サトウキビやトウモロコシを使ったBE生産やBR産業などの新規産業が活発化しています。しかし、作物のバイオマス(主にセルロースなど)のみを用いたBE生産では、セルロースを糖化する必要があり、Life Cycle Assessment (LCA)によれば、エネルギー収支などが釣り合いません。現状でLCAに見合うのは、サトウキビを原料にした場合のみと言われています。しかし、サトウキビを用いたバイオエタノール生産は、砂糖価格に影響を与えたため社会問題となりました。そこで我々が注目したのは、砂糖(結晶糖)の原料としては利用されていないソルガムです。ソルガムの高糖性品種は、稈に蓄積される汁液の糖度が20%近くにもなる品種もあります。近年、エネルギー作物の候補として、いくつかの大型植物がしばしば話題にのぼりますが、これらの候補の中で高糖性搾汁液を得られるのは、サトウキビと高糖性ソルガムだけです。

第二の注目点はその高バイオマスです。ソルガムは、草丈が4m以上に達する品種もあり、茎葉部バイオマスはイネの10倍以上にもなるため、それに比例して糖収量も高くなります。また、我々の提唱しているソルガムのカスケード利用では、搾汁液をBEBRに用い、残った残渣のセルロース成分を糖化して再利用し、最終残渣は家畜飼料とすることから、“一粒で三度おいしい”農畜連携の循環型システムとなります。
 しかし現状では、高糖性品種と高バイオマス品種は全く別の品種です。もしも、両者の性質を併せ持つ「大きくて甘い品種」ができれば、サトウキビに匹敵する糖収量を得ることができるかもしれません。このような育種は、ゲノム科学が未熟だった20世紀には達成困難な課題でしたが、ゲノム科学が発達した現代では挑戦するに値する課題だと我々は考えています。このアプローチとして、まず、なぜ品種によって草丈が違うのかを明らかにするため、草丈が低い低糖性品種と草丈の高い高糖性品種の交配

を行い、その雑種集団を用いたQTL(量的遺伝子座)解析を行いました。その結果、稈長や高糖性を制御するQTLを同定することに成功したのです。現在は、このQTLに座乗する原因遺伝子の同定を行いつつ、このQTLをゲノム育種的手法の一つであるMarker Assisted Selection (MAS)により高バイオマス品種に導入することで、大きくて甘い品種の作出を目指しています。

このような大きな目標の達成には、大学院生や学部生の研究が欠かせません。そこで我々ソルガムグループでは、大学院生、卒研生らとともに各々研究テーマを設定し、基礎、応用の両面に渡り精力的に研究を進めています。
図2 大型のソルガム系統